屋上・壁面緑化の基礎知識

壁面緑化の目的

壁面緑化を良いものにするためには良い計画が必要です。 どのような目的で行い、どんな効果に狙いを定めるのか、限られた空間と予算の中で、 何を優先させるのか見失わないことが大切です。

自然環境向上を目的とした緑化

都市の自然環境の向上を目指した緑化の場合には、野鳥などの自由な生活活動ができるように、生息基盤となる緑の総量の増加と採餌・休息のための多様な環境づくりをしなくてはなりません。 多様な生物相の形成を目的とした、樹林や花、実の成る植物による緑化の形成が理想的ですが、単純な植栽でも休息地として、野鳥の営巣が確認されることもあります。自然環境が向上することにより、都市の野鳥・昆虫などの個体数・種類の増加を見込むことができます。

景観の向上を目的とした緑化

主に、街路からの視線を意識した設計となります。近隣の高層ビルなどからの視線など、外部の人総ての視線を意識しなくてはなりません。建築物・土木構造物の壁面、柱、河川護岸、道路法面などの立面が対象となります。緑化面積が多いことが必ずしも景観の向上には結びつかない場合があり、まちなみとの調和、建築・土木構造物意匠との関係が大切となります。

熱収支(CO2削減)改善が目的の緑化
  • 都市全体のヒートアイランド軽減をめざす場合には、建築物単体での緑化に頼らず、街区単位での集中的な緑化が出来ることが望ましいとされます。
    温度・湿度など、微気象の改善が重なりあうことで都市全体の改善が期待できます。
  • 建物単体への日照調節・断熱・放熱の軽減を目指す場合は、壁面だけでなく屋上を含めた建物全体的に緑化をすることが望ましいとされます。
  • 壁面は葉の隙間が少なく、濃密な緑の面を作る必要があります。また自立した別躯体を設けるなど、緑化部分との隙間が大きいほど効果は高いと言われます。
大気の環境浄化が目的の緑化
  • 都市大気の浄化を目指す場合、建築物などの壁面・屋上など、さまざまな特殊緑化空間において、出来る限りボリュームのある緑化が望ましいとされます。
    植物の呼吸によって浄化が行われるからです。
  • 大気浄化を目指す場合、天然土壌を用いることが望ましいとされます。
    土壌には各種の気体を吸収する性質を持っていますが、そのうち一部については、分解してしまうことも確認されています。特に、反応性の乏しいフロンであっても微量ながら吸着していることは注目に値します。
    大気汚染物質の分解反応には土壌微生物の働きが大きなウエイトをしめていると考えられています。土壌微生物の活動が活発なほど浄化効果が高いと推察できますから、有機物を多く含む天然土壌であれば、これらの効果を期待できます。
  • 大気環境の浄化効果のある植物を用いることにより高い浄化効果が期待できます。
    CO2、NOx、SO2の吸収、粉塵、O3(オゾン)、重金属などの大気汚染物質の吸収など、植栽により期待ができるとされています。
    室内などにおいては、ホルムアルデヒドを吸収する植物なども注目を浴びています。
園芸療法が目的の緑化

植物揮発成分の効果を考えた場合、テルペン類の多い針葉樹を交えることが望ましい。植物から揮発する成分には、心理安定、沈静、覚醒などの効果が認められていることは古くからしられており、【アロマテラピー】【フィトンチッド】など、一般的に親しまれていることは周知のとおりです。

効果

壁面緑化の効果

ヒートアイランド対策
建物の温度上昇を抑制します。

建物の表面温度を下げる効果としては、実験環境下で最大11度の表面温度差が確認されています。

実験環境
場所 壁面
日時 2006年8月2日
天候 くもり後はれ
平均風速 2.3m
日照 8.6h
最高気温 34.2度
平均温度 67%
省エネルギー対策
室内への熱量を抑制します。

壁面の熱流入量の実験結果より実験環境下においては、90%の削減が確認されています。

実験環境
場所 壁面
日時 2006年8月24日
天候 快晴
平均風速 1.9m
日照 12.4h
最高気温 35.4度
平均温度 55%
騒音低減効果
室内への騒音を抑制します。

カベルデの壁面の場合、道路の防音壁などに利用されている厚さ50mmのグラスウールとほぼ同等の吸音性能が確認されています。

試験状況
試験年月日 2007年5月11日
9:00~11:00
温度,湿度,気圧 21.4℃,44.4%,999.0hPa
周波数条件 100~5kHz 1/3オクターブ
測定機関 岡山県工業技術センター
測定者 みのる産業
試料面積 10.98㎥
CO2の削減効果
年間336.6㎏のCO2を削減します。

実験結果による試算から、壁面緑化100㎥の場合で、年間336.6㎏のCO2を削減できるという結果があります。

①空調負荷軽減によるCO2削減量
夏季(7月~9月) 80wh/㎥ /day × 90day × 100㎥ = 720kW
春・秋(4月~6月・10月) 40wh/㎥ /day × 120day × 100㎥ = 480kW
  上記合計 1,200kW
空調機成績係数=2として
0.561(※代替値)kg・CO2/kW×1,200kW/2(※COP)/年 =336.6kg(年間CO2削減量)
②植物に固定されるCO2
100㎥ (植物の生育によるもの、最初のシーズンのみ加算)
植物体乾燥重量×0.5×44/12≒100kg
③気化熱による気温低下
潜熱に変わるため計算は難しいがある程度期待できる
※代替値=環境省発表(平成20年度)
※COP=空調設備の優秀さを示す成績係数。
{(冷房能力(kW)/冷房時消費電力(kW)+暖房能力(kW)/暖房時消費電力(kW)}/2
屋外温熱環境改善効果
壁面表面温度と地表面温度を低減します。

緑化壁面は高反射面(白色の金属板を設置した面)よりも温度低減効果が高く、また高反射面前の地表面温度が最大で約2.5℃上昇したのに対し、緑化壁面前の地表面温度は約6℃低下しました。

壁の前に立つ人への影響も低減します。

緑化壁面は高反射面と比較して、赤外領域の長波成分には大きな差は見られないものの、反射日射である短波成分は小さな値となっている。長波、短波放射量を合計した全放射量では、緑化面は灰色のペンキを塗装したコンクリート壁面よりも最大25W/㎥小さく、人への影響が小さい。

長波放射量の比較

短波放射量の比較

出所)佐々木澄他:鉛直壁面の素材の違いが街路空間の温熱環境に及ぼす影響の検討(その2),
日本建築学会大会学術講演梗概集(2012)

大気環境の浄化効果

地球に降り注ぐ太陽光線は、大気を素通りし地球に到達します。太陽光線によって暖められ地表温度は上昇し、地表に溜まった熱は赤外線となり大気へ放出されます。
放出された赤外線は一部が温室効果ガスによって吸収され、大気圏内に留まり、また地表へ輻射します。この、反復によって大気の温度が保たれているのです。
もし、温室効果ガスが無くなってしまうと大気の温度は極端に冷えてしまい、生物は生きていくことができません。
しかし、現在では生活様式の変化などにより、この温室効果ガスが過剰になり、放射する熱との均衡が崩れ気温が上昇し、急激な気候変動により、生物の生態系に悪い影響を与えています。

温室効果とは

温室効果ガスとは、地表から放出された赤外線を吸収して温室効果をもたらす気体の総称です。
1997年第三回気候変動枠組条約締結国会議(COP3)で採択された京都議定書で、地球温暖化防止目的のため、【二酸化炭素】【メタン】【一酸化窒素】【ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)】【ノルオロカーボン類(PFCs)】【六フッ化硫黄(SF6)】の6種類を削減対象の温室効果ガスと定めました。以来、一般的にこれらを温室効果ガスと呼んでいます。

二酸化炭素が大きく取り上げられる理由

大気の主な成分は窒素78.1%・酸素20.9%・アルゴン0.9%・二酸化炭素0.38%程度といわれています。温室効果ガスのうち二酸化炭素(以下CO2)が大きく取り上げられる理由は体積当りの赤外線吸収量は他の温室効果ガスに比べ小さいものの、全体の排出量が膨大であるため、環境に対する負荷が大きいとされているためです。産業革命以前のCO2の大気中濃度は0.28%程度であったと推測され、化石燃料の利用により現在の濃度になったと言われています。化石燃料にたよった現在の生活を見直し、少しでも化石燃料の利用を減らすことによって大気中のCO2削減が可能になります。
CO2削減の対策として

  1. 化石燃料に頼らないエネルギー
  2. 省エネ効果を上げる
  3. CO2を取込む

などが一般的に言われます。現在の生活水準を変えることなくこれらを行うことは難しいと考えられますが、例えば建物を緑化することもひとつの方法です。(壁面緑化の効果・屋上緑化の効果)

窒素酸化物について

窒素酸化物(一酸化窒素・二酸化窒素など)は温室効果ガスであると同時に大気汚染物質でもあります。
自動車の排気ガスや工場から排出される煙などに多く含まれている一酸化窒素は大気中で紫外線の影響で酸素やオゾンと反応し二酸化窒素になります。
二酸化窒素は健康被害(呼吸器疾患など)を起こす原因となり、排出量は大気環境基準に定められています。光化学オキシダント(光化学スモッグ)や酸性雨の原因物質です。
いま現在ではCO2の削減が多く求められていますが、窒素酸化物(NOx)を多く吸収する植物を選択し、建物を緑化することによって大気の浄化という大きな目的を持つことが可能になります。

緑化の維持管理

一般的な植物は、独立栄養生物に分けられ、生育に必要な有機化合物を二酸化炭素(CO2)や重炭酸塩と、光エネルギーを利用して合成します。

例えば、光合成の反応は

6CO2 + 12H2O+(光エネルギー) → C6H12O6 + 6H2O + 6O2(収支式)

で表し、植物は産生されたC6H12O6(ブドウ糖)を生活エネルギーとして利用します。

植物は生育に必要な塩類を主に根から吸収しています。そして光合成で作られたエネルギーをもとに呼吸・生育をします。植物の光合成についてはご承知の方も多く、日当たりの良い場所で水さえやっていれば植物は育つと誤解される事もあります。実際、野山の植物は人為的に肥料を与えずとも育っていますし、放って置いても、道に草は生えます。
しかし、それらは生態系の中で生物の生成・分解のバランスの上で成立っており、また、景観や意匠を望めるような状態にコントロールされているものではありません。建物の緑化のように、人為的に区切られた場所では、植物に必要なものは、やはり人為的に供給する必要があります。そして、常に生育が良い状態になるようにコントロール・維持していきたいものです。

灌水・施肥について

自動灌水装置は予定された日時に一定時間の灌水を行うことが出来ます。
灌水量については、季節・設置条件によって異なります。
置肥・手灌水の多くはさまざまな問題が発生します。そのためにも自動灌水装置(液肥混入機込み)が必須となります。
夏季は肥料・灌水量ともに要求量が多くなりますが、過湿はよくありませんので灌水量・回数に注意しましょう。

日射量について

光は植物の生育上で最も大きな要因の一つです。
ビルの谷間などは場合によっては、緑化ができないことがあります。
一日の日照時間が4時間を越えない場合は樹種の選定を慎重に行い、日照時間が1時間に満たない場合は、 時間の経過とともにどんな植物を選んでも、どうしても衰退してしまうので対策が必要でしょう。

病害虫・防除について

春~秋にかけて3~4回程度の薬剤散布が必要となります。発見してから準備・作業をした場合、後手になり被害が大きくなります。壁面緑化の場合、建築物の意匠に関わり、枯れなどによる景観の劣化は大きな問題となります。修復には費用も時間もかかりますので、予めメンテナンス・スケジュールを計画しておくことが必要でしょう。

剪定・清掃について

春と秋など年2回程度必要です。ツル性の植物は生育も早く、上下の植物を覆い日射を防ぎ、欠株を引き起こすことがあります。また、植物は枯れなくとも、葉が更新するため水周りに枯葉がたまることがあります。水周りの掃除もスケジュールに入れておきましょう。

高層建築のビル風・室外機などについて

設置位置が高層でなくともビル全体の高さにより、強い風が吹くことがあります。
強い風のもとでは気孔が閉じてしまい気孔蒸散が行われなくなります。蒸散が行われなくなると浸透圧の関係で植物が必要とする栄養を含んだ水が吸い上げられなくなり、光合成に必要な二酸化炭素も取り入れられなくなってしまいます。ビル風の通り道や室外機の噴出しには設計の段階からできるだけ避けた方がよいでしょう。
強い風が吹き続ける環境は植物の生育に良いとは言えません。

緑化助成金・補助事業について

国や自治体からの緑化助成制度は事業費に対するものが一般的ですが、緑化による容積率の割増や苗木の補助、融資制度などがあり、地域にとっての緑の必要性や都市計画、その施設の目的や公共性などを考慮される事が多いようです。
(道路に面した塀・壁 / 学校・病院 / 一定規模以上の建築物など)
交付申請にあたり、公共・民間・個人の制限はないのが一般的で、申請に際して大まかな手順としては、右図をご覧ください。

交付内容の詳細や申請窓口は制度によってことなります。
また、緑地面積の算出について(壁面緑化の場合の算出基準など)も制度によって異なります。
全国の助成金については、公益財団法人 都市緑化機構 のWEBサイトで窓口を紹介しています。

公益財団法人 都市緑化機構

http://urbangreen.or.jp/ug/ug_conference/binran_index/

大まかな申請手順
(例 岡山市公園協会)大まかな申請手順

何もなくても定期点検

毎年のように、例年にない異常気象現象が起きています。それに伴い病害虫の発生も予測できないことがおこる可能性があります。定期的な見回りを計画しましょう。